イランの戦争が長引いたら食料危機になる、というニュースが正直かなり怖い

イランの戦争が長引いたら食料危機になる、というニュースが正直かなり怖い 世界情勢

■ FLASH | 事実の核心

イランの戦争が長引いたら食料危機になる。2025年3月、複数の国際機関と農業経済学者が「イランとの軍事衝突が長期化した場合、ホルムズ海峡と紅海の両方が不安定化し、肥料・食料の輸送が滞ることで世界的な食料危機が発生しうる」という分析を発表した。特にウクライナ戦争の影響がまだ続く中で、中東の紛争が「食料安全保障へのダブルショック」になるリスクを指摘している。これは正直かなり怖い話だと思う。

「怖い話」として受け止めた上で、何が正確に問題なのかを考えたい。感情的に怖いだけで終わってはいけない。どのメカニズムで食料危機が起きるのか、どの地域に影響が大きいのか、日本はどのくらいのリスクにさらされているのか——これを具体的に考えることが重要だ。

■ CONTEXT | 背景と歴史

「食料の武器化」の歴史。食料や農業資材(肥料・農薬)の輸送が紛争によって妨害されることで食料危機が生まれる「食料の武器化」は、歴史的に何度も起きてきた。1960〜70年代のナイジェリア内戦(ビアフラ飢饉)、1980年代のエチオピア飢饉(内戦と農業政策の失敗の複合)、そして2022〜23年のウクライナ戦争(小麦・ひまわり油・肥料の輸出が激減)が代表的な事例だ。

ウクライナ戦争と食料市場への影響の教訓。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後、小麦・トウモロコシの価格は3〜6ヶ月で50〜70%上昇した。ウクライナとロシアを合わせた小麦輸出は世界全体の約30%を占めていたからだ。国連の「黒海穀物イニシアチブ」によって一定の輸出が再開されたが、中東・アフリカの食料輸入依存国では深刻な影響が続いた。

肥料輸送と中東・紅海の関係。現代農業は肥料(特に窒素・リン・カリウム)なしには成立しない。カリウム(カリ)の主要生産国はカナダ・ロシア・ベラルーシで、リンはモロッコ・中国・ロシア、窒素肥料の原料となる天然ガスはロシア・中東が主産地だ。紅海・スエズ運河経由の輸送が阻害されると、アジア・アフリカへの肥料供給に影響が出る。これが農業生産の低下につながると、数ヶ月後の食料不足として現れる。

脆弱な地域はどこか。中東・北アフリカ(エジプト・チュニジア・モロッコ・レバノン・イエメンなど)、サハラ以南アフリカの貧しい国々、そして農業輸入依存度の高いアジア諸国(バングラデシュ・フィリピン・インドネシアの一部)が特に脆弱だ。これらの国では食料価格の10〜20%上昇が政情不安を引き起こすほどの影響を持つ。

■ PRISM | 日本への照射

日本の食料自給率とエネルギー・肥料の輸入依存。日本のカロリーベースの食料自給率は2024年度で約38%と低い。しかし問題はそれだけではなく、食料生産に必要な肥料(カリ・リンはほぼ全量輸入)と農業用機械の燃料(石油)の輸入依存度が高いことだ。「食料を作れない」ではなく「食料を作るための材料が輸入できなくなる」というリスクが、現代農業の根本的な脆弱性だ。

日本の食料安全保障政策の現状と課題。2023年に食料・農業・農村基本法が改正され、「食料安全保障の強化」が政策の柱の一つになった。しかし肥料の国産化(アンモニア製造の拡大)、耕作放棄地の活用、農業人口の確保——これらの「実際の対策」の進捗は緩やかだ。「法律で謳われていること」と「現場での実行」のギャップを埋めることが急務だ。

「食料危機」は政治的な不安定化のトリガーになる。歴史を見ると、食料価格の急上昇は政治的な不安定化・デモ・政権交代の引き金になることが多い。2010〜11年のアラブの春も、穀物価格の高騰が触媒の一つだった。食料危機が地政学的な混乱を生み出し、さらに食料危機を深めるという悪循環は、人類が繰り返してきた歴史的なパターンだ。

■ SCENARIOS | シナリオ分析

楽観シナリオ:紛争が短期で終わり、食料市場への影響が限定的。イランとの軍事衝突が2〜3ヶ月以内に停戦となり、紅海・ホルムズ海峡の通航が正常化する。食料・肥料の輸送への影響は「一時的な価格上昇」にとどまり、備蓄の活用と迂回ルートの確保で食料安全保障の危機を回避できる。

楽観シナリオのための備え。国際的な穀物備蓄の放出(IEAの石油備蓄放出と同様のメカニズム)、肥料の安定供給確保のための外交的取り組み、輸送保険の確保——これらを事前に準備しておくことが、短期紛争の影響を最小化する。

悲観シナリオ:「ダブルショック」で食料安全保障が崩壊。ウクライナ戦争の影響が続く中、中東の紛争が長期化し、穀物・肥料・エネルギーの輸送が同時に阻害される。食料価格が2022年比で更に30〜50%上昇し、アフリカ・中東の低所得国で深刻な飢餓が広がる。国際的な食料援助の需要が急増する一方、援助国の財政も逼迫する。

「食料危機は遠くにある」という日本人の感覚の危険性。日本では食料危機を「アフリカや途上国の問題」として見る傾向があるが、日本の食料供給も実は脆弱だ。「コンビニにはいつも食料が並んでいる」という現実が、「食料安全保障が脆弱だ」という認識を妨げている。この認識のギャップを埋めることが、正確なリスク評価の第一歩だ。

■ DATA ROOM | 数字で読む

世界の食料安全保障の現状。国連食糧農業機関(FAO)の2024年報告では、世界で慢性的な食料不安状態にある人口は約7億3300万人で、2019年(約6億7800万人)から増加している。この増加の主な原因として気候変動、COVID-19の影響、ウクライナ戦争の影響が挙げられている。中東・アフリカでの紛争の拡大は、この数字を更に悪化させるリスクがある。

日本の肥料輸入の構造。日本の農林水産省のデータによれば、カリ(カリウム肥料の原料)の99%以上、リン鉱石の99%以上、尿素(窒素肥料)の約90%が輸入だ。輸入先はカナダ・ロシア・ベラルーシ(カリ)、モロッコ・中国・サウジアラビア(リン)、中国・マレーシア・カタール(尿素)などで、中東依存の部分がある。

■ HAIJIMA’S TAKE

「怖い話」を怖がり続けることが大切だ。食料危機の話は読むと怖くなるが、その怖さが何らかの行動変容(政策への関心、食料備蓄の意識、農業への支援)につながらなければ意味がない。私は「怖い話を書いて読者を不安にさせる」のではなく、「怖い話を正確に理解して、備えるための材料にする」ために書きたいと思っている。

食料問題は「エネルギー問題の裏側」だ。エネルギー安全保障と食料安全保障は深く連動している。農業機械の燃料、肥料製造の原料、輸送のエネルギー——食料システムのあらゆる段階でエネルギーが必要だ。「エネルギーを多様化する」という政策が同時に「食料安全保障を強化する」ということを、政策立案者も国民も理解する必要がある。イランをめぐる問題は、この双方への問いを突きつけている。

この記事を書いた人

灰島

30代の日本人。国際情勢・地政学・経済を日常的に読み続けている。歴史の文脈から現代を読むアプローチで、世界のニュースを考察している。専門家ではないが、誠実に、感情も交えながら書く。

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