オーストラリアで州間の税収配分争い。こんなニュースが出ていた。オーストラリアの西オーストラリア州(WA)が、消費税(GST)の分配において55億オーストラリアドルもの上乗せを受けることになり、一方でニューサウスウェールズ州(NSW)がその最大の割を食う形になったという話だ。NSWの州首相はこの仕組みについて「不公平で、もう賞味期限切れだ」と真正面から批判している。
「2018年の密約」が今も効いている。少し整理すると、オーストラリアはGSTという消費税を連邦政府が一括徴収して、各州に配分する仕組みをとっている。問題は、その配分比率が「どれだけ自前で税収を稼げるか」という能力評価に基づいて計算されるという点で、つまり鉱物資源で潤っていたWAは長らく配分をかなり削られていた。それが不満だったWAは長年ごねていて、2018年に当時の連邦政府がWAに対して「下限保証」という形で有利な取引を結んだ。その約束が今も生きていて、今回の55億ドル上乗せにつながっている。NSWからすれば「なんで俺たちが割を食うんだ」という話で、これは正直きつい。
オーストラリアの連邦制と州間格差の根深さ。なぜこういうことが起きるかというと、オーストラリアが持つ独特の地理的・歴史的事情が大きい。国土の大半は西に広がる乾燥地帯で、かつてWAは「遠すぎて国家に無視されてきた」という感覚を持ち続けてきた州だ。独立投票が過去に行われたことがあるほどで、連邦政府への不信感は根強い。その一方で鉄鉱石などの資源ブームでWAの経済力が急膨張し、「稼いでいるのに分配は少ない」という逆転現象が生じた。この怒りを抑えるために政治的な妥協がなされたわけで、オーストラリアという国が多様な地域性を抱えながらも連邦としてまとまろうとする努力の産物だとも言える。そういう調整力は、ある意味この国の底力だと思う。
SNSでも賛否の声が広がっている。X(旧Twitter)で「NSW emerges main」を検索すると、NSWの住民らしき人たちの不満の声や、「WAが優遇されすぎている」という意見が並んでいる。一方でWA側からは「長年不当に搾取されてきたんだから当然だ」という反論もあって、完全に平行線をたどっている。地方間の利害対立というのは洋の東西を問わず熱くなる話題で、読んでいて「どこも同じだな」とやや苦笑いしてしまった。
日本への影響は遠くて近い話。では日本にとってこれは何の関係があるかというと、意外と無視できない。オーストラリアは日本にとって最大の石炭・天然ガスの供給国であり、鉄鉱石も大量に輸入している。そしてその資源の多くはWAから産出されている。WAが豊かになり、資源開発への投資が続くということは、日本のエネルギー安全保障にとってはプラスの材料だ。同時に、州間で政治的な摩擦が高まれば、オーストラリア全体の政策の安定性に影響が出る可能性もある。日本はこういうときに「パートナー国の内政をよく理解したうえで関係を深める」という地道な外交を得意としていて、それは本当に強みだと思う。
ポジティブとネガティブ、どちらのシナリオもある。ポジティブなシナリオとしては、この論争をきっかけにオーストラリアがGST配分の仕組みを抜本的に見直し、より合理的な制度へと移行する可能性がある。実際NSWの州首相が「賞味期限切れ」と発言したことで、連邦政府も本格的な制度改革に動かざるを得なくなるかもしれない。制度が透明化されれば州間の不満も和らぎ、国内の政治的安定につながる。一方ネガティブなシナリオとしては、この対立が選挙に絡んで政治的に利用され、州間の感情的な分断が深まってしまうことだ。オーストラリアは近年、物価高や住宅価格高騰に悩む国民が多く、税収配分問題が「誰かのせいにしたい」という不満のはけ口になるリスクがある。そうなれば改革は棚上げにされ、不満だけが積み重なる展開になりかねない。
制度改革の議論が今後の分岐点になる。今後の焦点は、連邦政府がこの批判を受けてGST配分ルールの見直しに本気で動くかどうかだ。2018年の合意は法律に基づくものであるため、簡単に変更できるものではないが、NSWという最大人口州が声を上げた以上、連邦議会での議論は避けられないだろう。鍵になるのは、次の連邦選挙のタイミングと各州の政治的立場の組み合わせだ。オーストラリアの民主主義は時間がかかっても自己修正できる体力を持っている国だと思うし、今回の「賞味期限切れ発言」がその改革サイクルを動かす一石になる可能性は十分にある。


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