■ FLASH | トランプがNATO離脱を通告した
「離脱」という言葉が現実の外交用語になった。2026年4月初旬、トランプ大統領はNATO(北大西洋条約機構)からの離脱を検討していることを公式に表明し、一部報道ではすでに脱退通告の手続きに入ったとも伝えられた。直接の引き金は、イランとの緊張激化に際して欧州同盟国が米国主導の軍事行動への参加を拒否したことだ。「同盟国が米国と共に戦わないなら、なぜ米国が彼らを守らなければならないのか」——トランプがかねて口にしてきたこの論理が、今回は行動を伴う可能性がある。戦後の安全保障秩序の根幹が、一人の大統領の怒りの前で揺れている。
■ CONTEXT | NATOとアメリカの関係史
NATOは第二次世界大戦後の冷戦構造の産物として1949年に設立された。ソ連の脅威に対抗するため、米国は西欧諸国と「一国への攻撃は全加盟国への攻撃とみなす」という集団防衛条項(第5条)を骨格とする同盟を形成した。これはそれまでの米国外交の孤立主義からの根本的な転換であり、米国が恒久的な軍事同盟に参加するという歴史的な決断だった。NATO創設以来、この同盟は米国の対欧安全保障の基盤であり続け、冷戦後もコソボ紛争、アフガニスタン作戦(第5条が唯一発動された9.11後)と機能してきた。
しかしトランプ以前から、NATO内での負担分担への不満は米国側で根強かった。NATO加盟国はGDPの2%を国防費に充てることを目標としているが、米国は4%超を支出する一方、欧州主要国の多くは長年2%を下回ってきた。トランプ第1次政権はこの不均衡を激しく批判し、「防衛費を出さない国は守らない」と発言して同盟を揺さぶった。バイデン政権でNATOとの関係は修復されたが、欧州各国への防衛費増額圧力は成果を上げ、現在は多くの国が2%目標に近づいている。
イラン問題が同盟内の亀裂を深めた。トランプ政権はイランの核開発加速に対し、軍事オプションを排除しない強硬姿勢を示してきた。しかし欧州同盟国——特にフランス、ドイツ、英国——は外交的解決を優先し、米国の軍事行動への参加を明確に拒否した。2020年のイラン革命防衛隊司令官ソレイマニ殺害のような単独行動をトランプが取ろうとした際も、欧州は距離を置いた。今回の離脱発言は、この「欧州は戦わない」という認識への累積した不満の爆発だ。
NATO離脱は法的に複雑な手続きを必要とし、議会の関与が問題になる。北大西洋条約はその脱退条項(第13条)で「一年前の通告」を規定しているだけで、大統領単独での脱退が可能かどうかは法的に争いがある。2024年に米議会はNDAA(国防権限法)にNATO離脱には上院の3分の2の同意が必要との条項を盛り込んだ。トランプ政権がこれを無視して離脱手続きを進めれば、法廷闘争は必至だ。しかし通告の「脅し」だけでも、同盟の結束に致命的な打撃を与えうる。
■ PRISM | 日本の安全保障への影響
NATO離脱は直接的には欧州の問題だが、日米同盟への波及効果は無視できない。「同盟は条件付き」というトランプの論理がNATOで実証されれば、日米安保条約に対しても「日本が米国の戦争に付き合わないなら守らない」という圧力が強まる。日本は集団的自衛権の行使を限定的に認める安保法制を整備してきたが、米国が求める「共に戦う同盟」のレベルに達しているかは常に問われてきた。NATO離脱は、日本に対して「同盟の代価」をより明確に示す先例になる。
防衛費増額の圧力はさらに強まる。日本はGDP比2%への防衛費増額を進めているが、NATO離脱論は「2%では足りない、3%を目指せ」という次の要求への伏線になりうる。また、日本が米国の対中・対イラン政策に対してどこまで「共に立つ」かという踏み絵も、より明示的に求められる可能性がある。同盟の「条件化」は日本の外交・防衛政策の自律性を制約する圧力として機能する。
■ SCENARIOS | NATO崩壊後の世界:二つの分岐
ポジティブシナリオでは、危機がNATOの自律的強化を促す。米国の離脱通告が欧州の防衛自立を加速させ、EU独自の安全保障体制の構築が進む。欧州防衛産業の強化、共同核抑止の議論、独立した指揮系統の整備——長年言われてきたが進まなかった「欧州の戦略的自律」が、逆説的にトランプによって推進される。日本も欧州との安全保障協力を深め、多極化した同盟網の構築に動く。
ネガティブシナリオでは、NATOの機能不全がロシアの拡張主義を加速させる。米国の離脱または実質的な関与低下によって、ロシアが旧ソ連圏への軍事的圧力を強める。バルト三国やポーランドへの侵攻リスクが高まり、欧州は急速な再軍備を迫られるが間に合わない。核抑止の信頼性が低下し、欧州各国が独自の核武装を検討する動きが出る。戦後80年で構築された安全保障秩序が崩壊し、世界は再び「弱肉強食」の時代に逆戻りする。
■ DATA ROOM | NATOと防衛費の数字
同盟の現状を数字で見る。NATO加盟国は32か国(2024年のスウェーデン加盟後)。米国のGDP比国防費は約3.5%、欧州主要国の平均は約1.8%(2025年)。ただし2024年以降、多くの欧州国が2%目標達成に近づいており、ポーランドは4%超を支出。NATO全体の軍事費に占める米国のシェアは約70%。冷戦期には50%程度だったことを考えると、欧州の相対的な貢献低下は明確だ。しかし経済規模の変化を考慮すると、単純比較には注意が必要だ。
■ HAIJIMA’S TAKE | 同盟は信頼で成り立つ
私が最も恐れるのは、NATOが実際に崩壊することではなく、「いつ崩壊するかわからない」という不安が世界に広がることだ。抑止力の本質は能力ではなく信頼性にある。相手が「本当に攻撃してくれば米国は動く」と信じているからこそ、攻撃は抑止される。トランプが「守らないかもしれない」と発言するたびに、その信頼性は削られる。実際の脱退がなくても、この疑念の植え付けがNATOを機能不全にする。
しかし同時に、「欧州は自ら守れ」という問いは正当な問いでもある。80年間、欧州は米国の核の傘と駐留軍に依存してきた。自らの防衛を他国に委ねてきたことへの批判は、欧州内部からも出ている。問題はトランプの問い方ではなく、その答えを「脅し」で引き出そうとする手法だ。同盟関係は利益の計算だけでなく、共有する価値への信念によって支えられる。その価値への言及なしに「カネを出せ」と迫るトランプのやり方は、同盟を市場取引に貶める。私はその点を深刻に懸念している。
この記事を書いた人
灰島
30代の日本人。国際情勢・地政学・経済を日常的に読み続けている。歴史の文脈から現代を読むアプローチで、世界のニュースを考察している。専門家ではないが、誠実に、感情も交えながら書く。


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