イランの新たなる脅しが、またしても中東の不安定性を加速させている。イラン最高指導者の交代劇は、単なる権力継承ではなく、地域全体の均衡を揺さぶる現象だ。モジタバ・ハメネイが新最高指導者に任命されたのは3月8日。父親のアリー・ハメネイがイスラエルとアメリカの攻撃で殺害された直後の出来事である。
息子は父と同じ硬硬な路線を踏襲するだけなのか。それが問題だ。新最高指導者は早速、ホルムズ海峡の封鎖を継続すると宣言した。世界の石油輸送量の約30%がこの海峡を通過する。つまり、イランのこの一言で、グローバル経済全体が揺らぐ可能性があるということだ。イスラエルとの戦争で父親を失い、妻と息子まで失った怒りが、この宣言に込められている。だから、これは単なる外交的脅迫ではなく、本気の危機宣言だと私は考える。
ホルムズ海峡は地政学上の最重要拠点だ。ペルシア湾からアラビア湾への出口であり、オマーンとイランに挟まれた幅わずか21キロメートルの海峡である。ここが遮断されれば、サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、カタールといった主要な石油産出国からの輸出が全て止まる。歴史的に見れば、この海峡の支配権をめぐって、ペルシア帝国の時代からイギリス、そしてアメリカが権力を競い合ってきた場所だ。イランが「これをコントロールするのは我々だ」と言い張るのは、19世紀のペルシア帝国の栄光を取り戻したいという思いの現れかもしれない。
戦争の余波が経済へ波及する。既にオイルショック級の価格上昇が懸念されている。ホルムズ海峡が実際に封鎖されれば、バレル当たり150ドルを超えることも現実味を帯びている。日本経済はエネルギーの約80%を中東に依存している。つまり、イランの一声で、日本の給油所のガソリン代が跳ね上がり、電気料金が上昇し、インフレが加速する。これは対岸の火事ではなく、私たちの生活に直結した危機なのだ。
モジタバの統治が安定するかは未知数だ。父親は40年以上の統治経験を持つ人物だったが、息子はまだその器量を示していない。さらに、イランの内部では、強硬派と穏健派の分裂が深刻化している。新指導者が対外強硬路線を貫くのであれば、国内の経済危機はさらに悪化するだろう。一方で、経済制裁の圧力が高まれば、国内反発も増す。イランは、今、歴史的な岐路に立っているのだ。
ここで重要な歴史的文脈を指摘しておきたい。ペルシア文明は3000年近く前から、東西交易の中心地として栄えてきた。シルクロードもペルシアを通じて世界とつながっていた。イスラム革命(1979年)以降、イランはこの地域での影響力を拡大してきたが、それでも西側との対抗関係は変わっていない。モジタバ新指導者がホルムズ海峡の封鎖を宣言したのは、この長い歴史的葛藤の延長線上にあるのだと理解すべきだ。
日本への直接的な影響は甚大だ。既に日本の大手商社は、中東からのエネルギー調達ルートの多様化を急いでいる。しかし、短期的な調達先転換は不可能に近い。そして何より、こうした不安定性は、日本が長年築いてきた中東でのプレゼンス低下につながりかねない。かつて日本は、イランとの友好関係を築こうとしていたが、アメリカの圧力で制裁に参加せざるを得なかった。その結果、今、イランからの報復を受ける可能性さえある。
外交的な解決路は急速に狭まっている。ホルムズ海峡の自由な航行を保証することは、国際法(国連海洋法条約)で定められている。だから、イランの封鎖宣言は国際法違反であり、アメリカはこれを理由に軍事行動に出る可能性さえある。その場合、中東全域がさらに混乱に陥る。
ポジティブなシナリオも存在する。もし国際社会がイランとの対話を重視し、段階的な制裁解除と引き換えに核開発の制限を求めるなら、緊張緩和も不可能ではない。例えば、スイスやアラブ首長国連邦を中心とした仲介外交が機能すれば、最悪の事態は回避できるだろう。イランも、完全な経済封鎖よりも、部分的な制裁解除の方が国内安定につながることに気づき始めているかもしれない。
しかし現実は厳しい。モジタバ新指導者は父親の遺志を継承する形で、強硬路線を演出している。国内の求心力を高めるためには、「西側への対抗」という象徴が必要なのだ。だから、ホルムズ海峡の封鎖宣言は、対外的な強硬姿勢の表現であり、国内的には権力基盤を固める道具になっている。
ネガティブなシナリオの方が現実的に思える。ホルムズ海峡の実際の部分的封鎖、石油価格の急騰、グローバル経済の失速、そしてアメリカと同盟国による軍事報復。この悪循環に入れば、中東は数年単位で動乱に陥る可能性が高い。既に、イエメンの親イラン勢力(フーシ派)が紅海での船舶攻撃を激化させている事例からも、中東全域での武力衝突が加速する危険性は明らかだ。
データから見えることは、イランの経済的脆弱性だ。国際制裁によって、イランの石油輸出は日量100万バレル程度に制限されている。つまり、イラン自体が封鎖によって被る経済的打撃も甚大なのだ。にもかかわらず、モジタバ新指導者がこの宣言をしたのは、報復と象徴的権力の誇示が、経済合理性を上回っているからだと考えられる。
私の見立てとしては、中東は今、1980年代のイラン・イラク戦争以来の危機的局面に直面している。モジタバ新指導者は若く、国際交渉の経験に乏しい可能性が高い。一方で、父親の遺志を継承する重圧は計り知れない。その結果、彼は強硬路線へとますます傾斜していくだろう。日本は、この局面で、独立した外交的立場を示す必要がある。単なるアメリカの追従では済まない時代が来ているのだと、私は確信している。
出典:BBC News – Iran’s new supreme leader vows to block Strait of Hormuz
この記事を書いた人
灰島
30代の日本人。国際情勢・地政学・経済を日常的に読み続けている。歴史の文脈から現代を読むアプローチで、世界のニュースを考察している。専門家ではないが、誠実に、感情も交えながら書く。


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