「極めて可能性が低い」トランプ米大統領は4月21日、米イラン停戦の延長について、こう言い放った。アイスランドのレイキャビクに滞在するヴァンスVPとウィトコフ特使が、11日の第1回協議に続いて交渉を進めてきたが、核計画とホルムズ海峡の地位をめぐる溝は埋まらない。水曜夕方に期限切れ。延長されなければ、米軍の爆撃は再開される。
イラン外務省は静かだ「今のところ米国との再交渉の予定なし」。この一文に、両者の交渉が事実上、膠着状態に入ったことが露呈している。4月11〜12日のイスラマバード協議で、21時間かけた議論も、合意に至らなかった。米軍がインド洋でイラン籍タンカーを拿捕したのは、その直後のことだ。報復として、イランはホルムズ海峡の再閉鎖を示唆している。
ここからが、日本の話だ。停戦が破綻し、ホルムズが再び閉ざされれば、世界の原油取引の約20%が遮断される。日本の原油輸入の95%は中東経由であり、ほぼ全量がホルムズを通過する。つまり、私たちのガソリンタンク、発電所の燃料、航空機の給油。すべてが、この狭い海峡を通らなければ日本に到着しない。
数字だけでは見えない現実がある。2024年のホルムズ閉鎖時、アジアのLNGスポット価格は140%超も上昇した。それは企業の原価上昇率ではなく、あなたの家計の電気代として返ってくる。ANA・JALは5月から燃料サーチャージを約2倍に引き上げることを発表した。ロサンゼルス往復の航空券に、燃料費だけで11.2万円上乗せされる計算だ。来月、海外出張を控えている営業マンや、GWの家族旅行を計画していた家庭にとって、その値上げは唐突に降りかかってくる。
石油はどこへ行くのか。日本、中国、インド、韓国の4カ国で、中東からの原油の75%を消費する。LNGも59%を占める。つまり、ホルムズ一帯は、アジア4カ国の経済心臓部に直結した血管である。ここが詰まれば、最初は価格上昇として現れるが、やがて供給不足へと進む。ジェット燃料の価格は既に1バレル146.99ドルに達しており、3月の平均から大きく上昇している。
ホルムズ海峡とは何か。オマーン湾とペルシア湾を結ぶ、全長190キロメートルの狭い水路である。最も狭い地点の幅は2マイル(3.2キロメートル)。この狭さが、世界的なエネルギー危機の起点になる。イラン側にはイスラム共和国、オマーン側にはスルタン国。この両国の間の狭い海上通路を、毎日約21万バレルもの石油が通過する。世界の原油取引量の約20パーセント。つまり、地球上の石油を5本の指で表現すれば、その1本がこの海峡を通っている。
1980年代、同じホルムズ海峡で「タンカー戦争」と呼ばれるものが起きた。イラン・イラク戦争中、両国がホルムズを通過する船舶を攻撃し合った時代だ。その時期、原油先物相場は1バレル150ドルを超え(当時の価値で)、世界経済は混乱に陥った。その教訓を知る政策立案者たちは、現在のホルムズ危機に、同じ歴史が繰り返される可能性を感じ取っているはずだ。その歴史的トラウマは、現在の交渉すべてに影響を与えている。
米国の立場を理解する必要はある。トランプ政権は、イランの核開発を「絶対に許さない」という姿勢で一貫している。イランが核濃縮を加速させ、JCPOA離脱後の軍事転用の可能性を高めていることは、米国にとって許容できない脅威だ。ホルムズ海峡の「中立性」を保証させるために、軍事的圧力をかけるというのは、米国の戦略において合理的な判断である。だが同時に、この圧力はイランの怒りをさらに燃立たせ、交渉を難しくする側面も持っている。米国の論理は核拡散防止にあるが、その強硬さが対話の障害になっている。
イランの主張も聞く価値がある。イランは、かつてのJCPOA合意を米国が一方的に破棄したことに激怒している。その後の経済制裁によって、イラン経済は深刻な打撃を受けた。今、米国が交渉の席に着いているのは、イランが核濃縮を続けたからであり、イランの立場からすれば、「米国こそが協定違反者だ」となる。ホルムズ海峡の一方的な閉鎖も、イラン側からは「自国領土の主権行使」と映る。イランの外貨準備は減少し、インフレ率は40%を超え、失業率は20%に達している。その状況を米国が作り出したと感じるイランは、交渉で譲歩する理由を見出すことができない。片方が自分たちを被害者と考えるとき、対話は過去の清算問題に陥りやすい。
日本のエネルギー構造は特に脆弱である。日本は現在、原油輸入量の約95パーセントを中東に依存している。その内訳はサウジアラビア(36%)、アラブ首長国連邦(26%)、イラク(14%)、イラン(6%)、その他(17%)という構成。これらのすべてがホルムズ海峡を通過する。つまり、日本の電力会社、自動車の燃料、ジェット機の給油。その99%以上がこの海峡に依存している。一方、LNG(液化天然ガス)については、オーストラリア(39.7%)やマレーシア(14.8%)からの輸入が多く、ホルムズ経由は約6%に限定される。しかし、LNG市場全体が逼迫すれば、価格競争に巻き込まれ、結局日本の調達コストが跳ね上がる。
原発再稼働の状況を正視する必要がある。日本は現在、柏崎刈羽(新潟県)、高浜(福井県)、伊方(愛媛県)、玄海(佐賀県)の4つの原発で合計約18GWの電力を供給している。ホルムズ危機が石油価格を上昇させれば、火力発電の採算が悪化し、その分を原発でカバーしようとする圧力が高まる。政府の目標は、2030年までにさらに15~20GWを再稼働させることだ。だが手続きに6~12ヶ月要する。水曜の期限までに、その努力は間に合わない。
現在のガソリン価格を観察すれば、既に市場は危機を先読みしている。4月22日の日本の全国平均ガソリン価格は1リットル179円。そこに燃料サーチャージが上乗せされている。ANA、JALの発表によれば、5月1日以降、ロサンゼルス路線の燃料サーチャージは1人あたり往復11.2万円となる。羽田空港を利用するビジネス客や観光客にとって、この追加負担は決して無視できない。
電気代への波及効果を計算すると、影響はさらに大きい。日本の火力発電の燃料費は原油価格に連動する。2024年のホルムズ閉鎖時、LNGのスポット価格は140%以上上昇した。その時期、関西電力の電気代は月額2000~3000円上昇した。仮にこの規模の上昇が再び起きれば、日本全体の家計は月額1兆円以上の追加負担を強いられることになる。
生活用品の物流コストも同時に上昇する。日本の食料品の60%、衣料品の70%は海外からの輸入に依存している。国際物流の基盤は、タンカーとコンテナ船である。ホルムズ海峡を通過できない船舶は、アフリカ大陸の喜望峰経由で迂回する。その追加距離は約8000キロメートル。船舶の燃料消費は大幅に増加し、輸送期間も2~3週間延長される。その間、市場は「在庫不足」の心理で駆動され、物価全体が上昇圧力を受ける。サプライチェーンの混乱は、製造業全体に波及する。日本企業の国際調達戦略全体が、一気に狂わされる可能性がある。
米国の核不拡散政策の理屈を理解することは重要だ。トランプ政権は、イランの核濃縮を「絶対に許容できない脅威」と見なしている。これはイデオロギーではなく、戦略的な判断である。イランが核兵器保有国になれば、中東全体の地政学的バランスが変わる。サウジアラビアも核武装を要求し、地域での核軍拡競争が開始される。米国はそれを阻止するために、軍事的圧力をかけるという判断を下した。その論理は、国際秩序の観点からは一定の合理性を持つ。
OPEC加盟国の動向は予測不可能である。サウジアラビアとUAEは表面上、米国の同盟国だ。だが同時に、イランとの商取引でも経済的利益を得ている。サウジアラビアは2023年にOPECの減産政策を合意し、原油価格を高値で維持しようとしている。もし米国がイランへの爆撃を再開すれば、油田施設が破壊される可能性がある。その場合、世界の原油供給が更に減少し、サウジアラビアの売却価格は上昇する。経済的には、紛争激化がサウジの利益になる。こうした複雑な利害関係が、今後の石油市場を支配するだろう。
しかし私たちに選択肢はない。日本はこの両者の対立の間に立たされている。米国の核不拡散政策にも、イランの主権主張にも、等しく依存している。そのどちらかの「正義」を擁護することはできない。代わりに、私たちは「現実」を直視する必要がある。
現実とは、こうだ。停戦が延長されなければ、来週にはホルムズ海峡の通過が危険な状態になる可能性がある。その場合、石油タンカーはアラビア半島の迂回ルートを取らざるを得ず、輸送期間が約2週間延長される。その間、市場は「在庫不足」の恐怖心理で駆動される。原油先物相場は急騰し、ガソリンスタンドの看板は瞬く間に更新されるだろう。
日本政府の対応は原発再稼働の加速化である。柏崎刈羽原発などの再稼働により、15~20GWの発電能力を上積みしようとしている。これは正当な戦略だ。石油依存を減らせば、ホルムズ危機の影響を緩和できる。しかし原発の再稼働には時間がかかる。水曜の期限まで、あと数時間しかない。
短期的には、日本に打つ手がない。LNG輸入も、オーストラリア(39.7%)、マレーシア(14.8%)、インドネシアに依存しており、ホルムズ依存度は6.3%に留まる。一見、LNGは「安全」に見える。だが、LNGプラントの稼働能力には限界がある。アジア全体の需要が急増すれば、日本のLNG調達も競争入札となり、価格は吊り上がる。結局、エネルギーの「部分的な多様化」では、ホルムズ危機の本質的な脅威からは逃げられない。
2つのシナリオを考えてみよう。第1は、停戦が延長される場合である。この場合、現在の価格上昇トレンドは落ち着き、市場は一時的な安心を取り戻す。航空会社の燃料サーチャージは据え置かれ、ガソリン価格も徐々に下がっていくだろう。しかし、この「安定」は脆い。交渉が進展しなければ、3ヶ月後、6ヶ月後に同じ危機が繰り返される。問題の根本解決にはならない。
第2は、爆撃が再開される場合である。この場合、ホルムズ海峡は事実上の「紛争海域」と化す。保険会社は危険地域への運送を高額化する。タンカーの通過拒否や迂回が相次ぎ、石油供給は急速に逼迫する。原油先物相場は1バレル200ドルを超える可能性もある。その連鎖は、世界経済全体に波及する。日本のガソリン価格は200円を超え、電気代は急騰し、食料品の物流コストも跳ね上がる。サプライチェーンの混乱は製造業全体を直撃する。
市場の反応も予測の材料だ。原油先物相場は既に1バレル146.99ドルに達している。もし停戦が延長されなければ、この価格は1時間以内に160ドルを超える可能性がある。150ドル超の状態が1ヶ月続けば、世界経済は確実に減速する。GDP成長率は1~2%低下し、失業率は上昇する。特に製造業が多い日本は、このインフレ圧力に耐える力が弱い。日本銀行は既に金利を上げており、これ以上の金利引き上げは困難だ。つまり、日本政府には「インフレに対抗する手段がない」という状況に陥る可能性がある。
どちらのシナリオでも、私たちは受動的である。米国とイランの交渉の進展如何によって、日本の家計と経済は一方的に左右される。この不均衡は、戦後日本のエネルギー政策が、中東への一極依存から抜け出せていないことの結果だ。豪州のLNG、再生可能エネルギーの拡大、核融合の技術開発、地熱発電の強化。これらすべてが、遅すぎる速度で進んでいる。
政府の対応に期待するべきか。経産省は既に石油備蓄の放出を検討している。戦略備蓄は約122日分あり、短期的には価格上昇を緩和できる。しかし、本当に必要なのは「備蓄」ではなく「構造転換」だ。備蓄は時間稼ぎに過ぎない。問題は、日本が40年以上、同じリスク構造に留まっていることである。
個人レベルでできることは限定的である。ガソリン消費を減らし、電気使用を抑制し、海外旅行を控える。そうした「節約」は、自分たちの家計負担を軽減する。だが、日本全体のエネルギー依存構造は変わらない。電力会社や石油企業は、政府の指示下で対応するしかない。市民は、投票と納税を通じてのみ、間接的に影響を持つ。それ以上の主動性を持つことは困難だ。
日本の外交的立場は極めて微妙である。日本は米国の同盟国であり、安全保障条約で結ばれている。同時に、日本は中東との経済関係を60年以上保ってきた。イラン、サウジアラビア、UAE、カタール。これらすべての国とのエネルギー取引が、日本の経済を支えている。政府は公式には「米国を支持する」と表明する必要がある。だが水面下では、イランとの「パイプ維持」を探っているはずだ。仲介者として機能することで、両者の緊張を低下させる余地があるのか。それは、日本外交の真の力量を問う瞬間になる。
では、何を観察すべきか。第1に、水曜夜の交渉結果である。延長されるのか、破談に至るのか。その判断は、来週のホルムズ海峡の「通航状況」に直結する。第2に、もし爆撃が再開されれば、イランがホルムズを実際に閉鎖するのか、それとも示唆に留まるのかを注視する必要がある。閉鎖の範囲や期間によって、市場の反応は劇的に変わる。第3に、OPEC加盟国がどう対応するかである。サウジアラビアやUAEは、米国との同盟国でありながら、イランとの商取引でも利益を得ている。この複雑な立場から、彼らがどのような判断を下すのかが、石油市場の実際の逼迫度を左右する。
ホルムズ海峡の向こう側で起きていることは、遙か彼方の「政治」ではなく、私たちの日常の「経済」である。家計簿と給与明細をもたらす現実である。水曜の期限まで、あと数時間である。その先に何があるのか、私たちは静かに、注視するしかない。
この記事を書いた人
灰島
30代の日本人。国際情勢・地政学・経済を日常的に読み続けている。歴史の文脈から現代を読むアプローチで、世界のニュースを考察している。専門家ではないが、誠実に、感情も交えながら書く。


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