ホジャー、ブルース・スプリングスティーン、ジョニー・デップが一枚のアルバムに揃った。これは素直に好きなニュースだ

レジェンドへの豪華すぎるトリビュート。BBCが伝えたこのニュースを見たとき、思わず「え、この顔ぶれ、本気か」と声が出た。ホジャー、ジェシー・バックリー、ブルース・スプリングスティーン、プライマル・スクリーム、デヴィッド・グレイ、そしてジョニー・デップにケイト・モス。これだけの名前が一枚のアルバムに集まったのは、ある一人の男へのトリビュートのためだ。シェイン・マクゴーワン。2023年の11月にこの世を去った、アイルランドが生んだパンクとフォークの申し子である。

シェイン・マクゴーワンとは何者か。知らない人のために少し説明すると、彼はアイリッシュ・パンクバンド「ザ・ポーグス」のフロントマンで、荒削りで泥臭いケルト音楽とパンクロックを混ぜ合わせた独自のサウンドで1980年代のロンドンと世界を揺さぶった人物だ。代表曲「フェアリテイル・オブ・ニューヨーク」はいまでもクリスマスの季節になるとイギリスやアイルランドのラジオで流れ続け、何十年経っても色褪せない。彼の歌には労働者階級の哀愁と怒り、そして諦めきれない希望みたいなものが混在していて、それが多くのミュージシャンの魂に刺さり続けてきた。今回のアルバムはそんな彼の功績を称えようと、彼と縁の深いアーティストたちが自然に集まった形だと理解している。

アイルランド音楽が持つ独特の求心力。なぜこれだけの顔ぶれが揃うのかを考えると、アイルランドという国の文化的な磁力みたいなものが関係していると思う。アイルランドは人口が500万人にも満たない小国でありながら、音楽・文学・詩の分野で世界に与えてきた影響は人口比で考えると異常なほど大きい。ジェームズ・ジョイス、サミュエル・ベケット、ヴァン・モリソン、U2…と枚挙にいとまがない。そこには長い歴史の中で積み重なった、植民地支配への抵抗と故郷への郷愁と移民の悲しみがある。シェイン・マクゴーワン自身もイギリスで育ったアイルランド移民の息子であり、その二重のアイデンティティがあの音楽の深さを作っていた。今回のトリビュートアルバムは、そういう文化的な厚みに共鳴した人たちが国境を越えて集まった証でもある。これはアイルランドの、人を引きつける文化の強さだと素直に思う。

XではホジャーとジェシーへのXの声も熱い。X(旧ツイッター)で「Hozier Jessie Buckley」と検索すると、「この二人が同じアルバムに入るなんて」「アイルランド出身コンビが最高すぎる」「泣く準備ができている」といった声が英語圏を中心にいくつも見かけられる。ホジャーはアイルランド出身のシンガーソングライターで、ジェシー・バックリーも同じくアイルランド出身の女優兼シンガーだ。この二人がシェインへのトリビュートに参加するのはある意味必然で、ファンたちもその組み合わせに感情を揺さぶられているようだった。いやこれは正直、聴く前から期待値が上がりすぎて困る。

このニュース、日本との関係を考えてみた。一見すると「アイルランドと欧米の音楽の話でしょ」と思われるかもしれないが、少し角度を変えると日本とも無関係ではない。まず純粋な音楽市場の話をすると、日本はいまでも世界第2位の音楽市場であり、海外アーティストのアルバムやストリーミングの消費も根強い。ホジャーは日本にもファン層を持っており、このトリビュートアルバムがリリースされれば日本のストリーミングチャートにも波及する可能性は十分ある。それだけでなく、日本にはアイリッシュ音楽やケルト音楽を愛好するコミュニティが都市部を中心にしっかり存在していて、アイリッシュパブ文化や民族音楽フェスも定着してきている。日本人のこういった「本物の音楽文化」への敬意と愛情は海外からも評価されており、これは日本の誇れる文化受容の懐の深さだと思う。

ポジティブとネガティブ、両面から見ておく。ポジティブなシナリオとしては、このアルバムが世界的に高い評価を得ることで、シェイン・マクゴーワンやザ・ポーグスを知らなかった若い世代がその音楽にたどり着くきっかけになる流れが考えられる。特にホジャーのファン層は若く、スポティファイ経由でシェインの楽曲が再発見される動きは十分に想定できる。日本でも同様に、ケルト音楽やアイリッシュフォークへの関心が広がり、関連するライブや文化イベントに新しい客層が流れ込む可能性がある。一方でネガティブなシナリオとして気になるのは、こういった追悼プロジェクトが「名前を並べただけの企画もの」になってしまうリスクだ。豪華な顔ぶれが揃えば揃うほど、一人ひとりの表現が薄まって、アルバム全体としての統一感が崩れるケースは過去にも多かった。それはシェインが最も嫌ったことでもあるだろうと思うと、さすがに制作側にはちゃんと魂を込めてほしいと願わずにはいられない。

このプロジェクトが本物かどうかはリリース後にわかる。ただ、ブルース・スプリングスティーンという70代のレジェンドが同じアルバムに名を連ねているという事実は、単なる商業的な企画では説明がつかない重みがある。彼はシェインと個人的なつながりがあったとされており、その参加は本物のリスペクトの表れと見るのが自然だ。今後の鍵は、アルバムがどれだけシェイン・マクゴーワンのあの荒削りな魂を正直に受け継いでいるか、という一点に尽きる。きれいにまとめすぎたら負けで、泥くさくてよい。そういうアルバムが完成したとき、それはシェインへの本当の手紙になるだろう。そして音楽というものが国境も世代も軽々と越えていく瞬間を、もう一度世界に見せてくれるはずだ。

出典:BBC World

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