タンカーが撃たれた。2026年3月11日、三井商船が運航するコンテナ船がホルムズ海峡の約97キロメートル先の海域で飛来物に被弾した。乗組員への直接的な被害は報告されていないが、船体は損傷を受けた。アルジャジーラの報道によれば、この事件が起きた3月13日時点でペルシャ湾周辺に足止めされている日本関係の船舶は28隻にのぼる。1隻の被弾は偶発的な事件かもしれないが、28隻が動けなくなっているという事実は、日本と中東をつなぐエネルギーの動脈が今まさに機能不全に陥りつつあることを示している。これは遠い海の話ではない。あなたが今夜使う電気、明日車に入れるガソリン、来月の食料品の値段——それらすべてに直結する話だ。
日本のエネルギー構造の根本的な問題を理解する。日本は国内にほとんど石油資源を持たない。国土面積は大きくないが、世界第3位の経済規模を支えるには膨大なエネルギーが必要だ。日本の原油輸入の93.5%は中東に依存しており、そのほぼすべてがホルムズ海峡を通過する。たとえばサウジアラビア、UAE、クウェート、イラク——これらの国からの石油はすべてペルシャ湾を出てホルムズ海峡を抜けなければ日本に届かない。地理的に言えば、日本のエネルギー安全保障はこの幅25〜60キロメートルの海峡の安定に全面的に依存している。もしこの海峡が完全に閉鎖された場合、代替ルートはない。太平洋を迂回する長大なルートは技術的には存在するが、コスト面でも時間面でも現実的な代替手段にはなり得ない。これは単なる「リスク管理の問題」ではなく、日本経済の構造的脆弱性そのものだ。
1973年のオイルショックが何を教えたかを思い出す。日本がエネルギー危機を経験したのは今回が初めてではない。1973年の第四次中東戦争をきっかけとするオイルショックでは、日本の消費者物価指数が1年間で約20%上昇した。ガソリンスタンドには車の長蛇の列ができ、スーパーの棚からトイレットペーパーが消えた。「省エネ」という言葉が日本社会に定着し、産業界は徹底的なエネルギー効率化に乗り出した。以降の日本は、単位GDPあたりのエネルギー消費量を大幅に削減することに成功してきた。しかし2026年においても、日本のエネルギー構造は1973年と本質的に同じ脆弱性を抱えたままだ。中東への依存度は変わっていない。原子力発電は福島以降の政策的停滞で十分に活用されていない。再生可能エネルギーの普及は進んでいるが、産業用エネルギーや輸送用燃料をまかなうには程遠い。半世紀前の教訓は、今なお十分に活かされていないと言わざるを得ない。
日本政府の対応は迅速だったが、それで十分とは言えない。高市首相は3月16日に記者会見を開き、民間備蓄15日分と国家備蓄1か月分の放出を発表した。放出量は約8000万バレルで、これは日本の約45日分の国内需要に相当する。同時に、日本が加盟するIEA(国際エネルギー機関)の32か国が協調して備蓄を放出することでも合意した。この迅速な対応は評価できる。しかし本質的な問題は解消されていない。備蓄放出は「時間を買う措置」であり、根本的な解決策ではない。ホルムズ海峡が閉鎖されている状況が続く限り、物理的な原油の供給が減少し続けるのに対して、備蓄は有限だ。問題が半年以上長期化した場合、備蓄がいつかは底をつくという現実がある。
日本の備蓄量は世界最大規模だが、それでも限りがある。日本の石油備蓄は国家備蓄と民間備蓄を合わせて約4億7000万バレル、254日分の国内需要に相当するとされる。これはIEAが義務付ける「90日以上」という最低基準を大きく超えており、かつてのオイルショックの教訓から積み上げてきた成果だ。この備蓄量だけを見れば、日本は相当の余裕があるように思える。しかし254日という数字は「あらゆる輸入がゼロになった場合」の計算だ。実際には輸入が完全にゼロになるわけではなく、他のルートからの調達も一部続く。だからといって楽観視はできない。長期化すれば備蓄の取り崩しペースは加速し、産業向けの供給優先と家庭向けの配給制度が議論に上る事態も排除できない。
原油価格の高騰と円安が「二重苦」を生み出している。戦争勃発後、国際原油価格は急騰し3月上旬には89ドルを突破した。このまま推移すれば100ドル台への到達も現実的だ。日本が原油を輸入する際の支払いはUS ドル建てで行われる。原油価格が1バレル89ドルになっても、同時に円安が進んでいれば、実質的な負担はさらに重くなる。財務省のSatsuki Katayama大臣が「為替介入も選択肢」と発言するほど円安が進行しているということは、輸入コストがそれだけ急増しているということだ。エネルギー価格上昇→輸入コスト増大→貿易赤字拡大→円安→さらなる輸入コスト上昇、という悪循環が生じるリスクがある。コロナ禍後のインフレからようやく落ち着きかけていた日本の物価が、再び上昇軌道に乗りかねない状況だ。
企業への影響はすでに表れ始めている。物流コストの急上昇は製造業の収益を直撃する。日本の自動車産業、鉄鋼業、化学産業、電子部品メーカーはいずれもエネルギー集約的な生産工程を持つ。燃料代の上昇は工場の稼働コストに直接反映され、価格競争力を損なう。さらに船舶の保険料も急騰しており、ペルシャ湾ルートを避けてアフリカ南端の喜望峰を迂回するルートへの転換が増えている。喜望峰ルートはホルムズ経由に比べて距離が大幅に長く、輸送時間が2〜3週間延びる上にコストも跳ね上がる。これは単純に企業の利益を圧縮するだけでなく、在庫管理やサプライチェーン全体の計画に大きな狂いを生じさせる。日本の主要製造業者が海外生産の拡大や、国内生産の縮小を検討し始める動きが出てきても不思議ではない。
食料品への影響も見逃せない。エネルギー危機の影響は「ガソリン代」だけにとどまらない。日本は農業大国として食料自給率の向上に取り組んできたが、農業は化石燃料を大量に消費するセクターでもある。農業機械の燃料、農産物の加工・輸送のためのエネルギー、そして特に重要なのが肥料の原料だ。窒素系肥料の主原料は天然ガスであり、日本は大量の天然ガスを中東から輸入している。天然ガス価格が上昇すれば肥料価格が上がり、農産物の生産コストが増え、最終的に食料品の値段が上がる。エネルギー危機は食の安全保障とも不可分に結びついている。消費者の食卓を通じて、ホルムズ海峡の危機は一般家庭の生活にまで浸透してくる。
代替調達の可能性と限界を冷静に見る。中東依存を減らすための代替調達先として、日本はオーストラリア、米国、カナダ、カタール(カタールはホルムズ経由だが)などを模索してきた。米国産のLNG(液化天然ガス)は着実に供給量を拡大しているが、物理的な生産・液化・輸送インフラには上限がある。オーストラリアからの原油・LNG輸入もすでに相当量に達しており、大幅な増加余地は限られる。さらに根本的な問題として、日本の大型製油所の多くは中東産の特定の油種(アラビアンライトなど)を処理するように設計されており、異なる品質の原油を大量に扱うには設備の改造が必要になる場合がある。これは数百億円規模の投資と一定の時間を要する問題で、「お金さえあれば今すぐ解決できる」ものではない。
今後の展望を率直に述べる。短期的には、日本は現在の石油備蓄放出とIEA協調行動を続けながら、停戦実現への外交的働きかけを強める以外に選択肢がない。しかし今回の危機は、中期・長期的な構造転換を加速させる教訓でもある。原子力発電の再稼働については、安全基準を確保した上での早期実現が改めて現実的な選択肢として浮上している。再生可能エネルギーへの投資加速も急務だ。日本は太陽光・風力・地熱などのポテンシャルを十分に活かしていない。そして中東以外からのエネルギー調達多様化を、単なる「リスクヘッジ」ではなく国家安全保障の中核政策として位置付け直すべきだ。今回の危機が一時的に終わっても、次の危機はまた来る。「石油ショックはもう来ない」という楽観の時代は終わった。この教訓を次の行動につなげることが、今の日本に求められていることだ。
原子力発電の再稼働議論が現実味を増している。今回のエネルギー危機は、長年タブー視されてきた議題を政策論争の前面に押し出しつつある。原子力発電の再稼働だ。2011年の福島第一原発事故以降、日本の原子力発電はほぼ停止状態が続いてきた。2023年に岸田政権が再稼働推進に舵を切ったものの、実際に稼働する原発の数はまだ少ない。しかしエネルギーの93.5%を中東から輸入し、その経路が今まさに脅威にさらされている現実を前にすると、「原子力なしで日本のエネルギー安全保障を語れるか」という問いは切実さを増す。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは重要だが、天候に左右される不安定な電源を主力にするには技術的・経済的な課題がまだ多い。安全性を最優先にした上で、既設の原発の再稼働と次世代原子炉の開発を加速させることは、今の日本にとって避けて通れない選択肢だ。
国民への説明責任が問われている。朝日新聞の世論調査で90%が経済への影響を心配していることは、国民がこの危機の深刻さを認識しているということだ。にもかかわらず、政府の発信は「石油備蓄を放出した」という事実報告にとどまり、「いつまで持つのか」「最悪のシナリオはどうなるか」「私たちの生活にどんな変化が来るか」といった、国民が本当に知りたい情報は十分に伝えられていない。エネルギー安全保障は専門家だけが扱う問題ではなく、一人ひとりの生活に直結する問題だ。政府は正確な情報を、わかりやすい言葉で、継続的に国民に届ける責任がある。そして国民の側も、「誰かがなんとかしてくれる」という受け身の姿勢から脱して、省エネへの協力や地域エネルギーの議論に参加していくことが、長期的には日本のエネルギー安全保障の強化につながる。
地政学的リスクの「価格化」という視点。日本の石油会社やガス会社は、長年「いつかホルムズが閉まるかもしれない」というリスクを認識しながらも、それに見合った保険料や対策コストを価格に織り込んでこなかった。今回の危機は、地政学的リスクの「価格化」が今後不可欠になることを示している。エネルギーの調達価格にリスクプレミアムを組み込み、そのコストを社会全体で分担する仕組みを作ることは、不快ではあるが必要な現実だ。安すぎるエネルギーは、その分のリスクを将来の危機の際に一括払いしているのと同じだ。今が、そのツケを払う局面であることを日本社会は共有する必要がある。
電力コストへの影響は家庭と企業の両方を直撃する。原油価格の高騰は電力コストにも直結する。日本の電力会社は原油・LNG・石炭を組み合わせて発電しており、原油価格が上昇すると電力料金も上昇圧力を受ける。特に2025〜2026年の時期、日本の電気料金はすでにインフレと燃料費高騰を受けて高止まりしている。家庭にとっては電気代・ガス代の上昇は家計を直撃し、低所得世帯への影響が特に深刻だ。中小企業にとっても、エネルギーコストの上昇は経営を圧迫する。政府はエネルギー補助金の継続・拡充と省エネ支援の強化を急ぐ必要がある。長期的な問題の解決まで時間がかかる以上、短期的な家計・企業の痛みを緩和するためのきめ細かなセーフティネットが不可欠だ。
出典:Al Jazeera

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