米軍が中東への増派を決めた。BBCが報じたニュースによると、アメリカはさらなる海兵隊員と艦艇を中東地域に展開させる方向で動いているという。注目すべきはその増派の出どころで、通常は日本を拠点にしている「揚陸即応群」から戦力を引き抜く形になるとのことだ。CBSの報道をBBCが伝えた内容で、まだ正式発表ではないが、米政府関係者の発言として伝えられている以上、信憑性は高いとみていい。
揚陸即応群とは何か、おさらい。揚陸即応群というのは、海兵隊・揚陸艦・支援艦艇をセットにした機動部隊のことで、有事の際に海から地上へ素早く兵力を展開させることを目的にしている。日本に配備されているものは主に沖縄と佐世保を拠点としており、アジア太平洋地域での抑止力としての役割を担っている。つまり台湾有事や朝鮮半島の緊張に対する「即応態勢」の一翼を担う存在だ。それが中東方面に引き抜かれるというのは、地政学的なバランスという観点から見ると、決して小さな話ではない。
なぜ中東への増派が必要になったのか。背景にあるのは中東情勢の根強い不安定さだ。イスラエルとイランの間の緊張は依然として高く、フーシ派による紅海での船舶攻撃も続いている。さらにイラン核開発問題が再び表面化しつつある中で、バイデン政権からトランプ政権へと政権交代したアメリカが、強硬姿勢をアピールするために「目に見える軍事力の存在感」を演出しようとしている側面もあるだろう。中東はエネルギー資源と国際航路が交差する地政学的要衝であり、アメリカとしてはここで主導権を手放すわけにはいかないという判断がある。
アメリカの行動原理はいつも一貫している。正直、こういうニュースを見るたびに「また動いたか」と感じる自分がいる。ただ、アメリカという国はその強引さや覇権主義的な行動が批判される一方で、同盟国を守るために実際にコストを払い続けてきた実績もある。日本が戦後80年近く、比較的安定した安全保障環境の中で経済成長できたのは、在日米軍の存在と日米同盟の抑止力があったからこそという側面は否定できない。その力が今、一時的とはいえ別の方向に引き寄せられようとしているわけだ。
X(旧Twitter)でも反応が出ている。X(旧Twitter)で「More Marines and」と検索してみると、「また中東か」「アジアの防衛はどうなるんだ」「戦争拡大への一歩では」といった声が英語圏を中心に飛び交っている。一方で「これはイランへの強いメッセージだ」「抑止力として必要な措置」という擁護の声も少なくない。どちらの立場にも一定の合理性があるのが、この問題の厄介なところだ。
日本の安全保障環境への直接的な影響。これは日本にとって他人事では済まない。在日米軍の一部が中東に移動すれば、アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスが一時的にせよ低下する。中国は南シナ海や台湾海峡での活動を活発化させており、北朝鮮のミサイル挑発も続いている。そのタイミングで抑止力の一角が動くというのは、これは正直きつい状況だと思う。日本政府がどう対応するかが問われる局面だ。
日本経済への波及効果も軽視できない。日本は原油輸入の約90%を中東に依存している。中東で武力衝突が拡大したり、ホルムズ海峡の通航が妨げられたりすれば、エネルギー価格の急騰は避けられず、それは電気代・ガソリン代・物価全般に直撃する。ただ、日本はエネルギー安全保障の観点からサウジアラビアやUAEとの関係を丁寧に維持してきており、外交的なパイプの厚さはこういう時に活きてくる。日本の「静かな外交力」は、ここぞというときに動ける資産だ。
ポジティブとネガティブ、両方の未来がある。ポジティブなシナリオとしては、米軍の存在感が中東での紛争拡大を抑止し、短期間で安定が回復するというものだ。そうなれば在日米軍は早期に通常態勢に戻り、アジア太平洋の抑止力も維持される。一方、ネガティブなシナリオは、中東での対立が長期化・拡大し、米軍がそちらに釘付けになる中で、中国や北朝鮮が「今がチャンス」とばかりに動くというものだ。後者のリスクを日本政府がどこまで真剣に検討しているか、国民として注目しておく必要がある。
カギは日本自身の防衛力強化と外交力だ。今後、この問題で最も重要なポイントになるのは「日本がアメリカに依存するだけでなく、自律的な防衛力と外交的存在感をどこまで高められるか」という一点だと思う。防衛費のGDP比2%達成への動き、南西諸島の防衛強化、エネルギー調達の多角化、こうした地道な取り組みが今まさに問われている。中東が揺れるたびに翻弄されるのではなく、日本が自分の足で立てる国になっていくこと、それが長期的に最も確かな安全保障の道になるだろう。
出典:BBC World


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