メルボルンがようやくICカードなしで電車に乗れるようになったらしい。「ようやく」の重みが気になった

メルボルンで交通系ICカード不要の実証実験が始まる。こういうニュースをガーディアンで見かけた。オーストラリア・ビクトリア州の州都メルボルンが、公共交通機関でクレジットカードやデビットカードをタッチするだけで乗車できる「タップアンドゴー」の公開実証実験をいよいよ開始するという話だ。対象はまずクレイギーバーン線、アップフィールド線、バララット線、シーモア線の4路線に限定されるが、これはメルボルンの公共交通にとってかなり大きな転換点になる。

「ようやく」という言葉に込められた長年の不満。記事のタイトルにも「finally(ようやく)」という言葉が使われているのが印象的だった。メルボルンには現在「マイキー(Myki)」という交通系ICカードがあって、これをチャージして使う仕組みになっている。問題はこのマイキー、長年にわたってユーザーから不満が絶えなかったことだ。チャージが面倒、カードを持っていないと観光客が困る、紛失すると残高が消える、といった声が繰り返し上がっていた。一方でシドニーやブリスベンなどオーストラリアの他の主要都市はとっくにタップアンドゴーを導入済みで、メルボルンだけが取り残された格好になっていた。これは正直きつい状況だったと思う。人口でも経済規模でもシドニーと双璧をなすような都市が、利便性の面でずっと後れを取っていたわけだから。

なぜメルボルンはここまで遅れたのか。背景にはいくつかの要因がある。まずマイキーシステムの導入に多額の公費が投じられており、それを簡単に切り捨てるわけにいかないという政治的・財政的な事情がある。加えてビクトリア州の公共交通ネットワークは路面電車(トラム)を含む非常に複雑な構成で、システムの統合や改修に時間がかかるという技術的な問題もあった。メルボルンのトラムは世界最大規模の路面電車網として知られており、その複雑さは誇れるものでもあるのだが、今回の近代化の足かせにもなっていたというのが皮肉なところだ。ただ、こういう慎重さや既存インフラへの責任感は、ある意味オーストラリアらしい堅実さでもあると思う。

X(旧Twitter)にも「ようやくか」という声が広がっている。X(旧Twitter)で「Melbourne finally get」と検索してみると、現地の通勤者たちが「何年待ったんだ」「これで観光客がもっと来やすくなる」「でも4路線だけって…」といった反応を見せているのがわかる。喜びと「まだ全部じゃないじゃないか」というもどかしさが入り混じっていて、なんか微笑ましいと同時に「あーわかる、この感じ」となった。制度や技術が変わるとき、人々は常にフルスピードを求めているものだ。

日本への影響と、日本が学べること。これが直接的に日本経済に大きな影響を与えるかといえば、そうではない。ただ、視点を変えると無関係でもない。日本からオーストラリアへの旅行者、とりわけメルボルンを訪れる観光客にとっては、現地での移動がシンプルになる。マイキーをどこで買うか調べてチャージして、という手間が省けるのは地味に大きい。また日本はSuicaやPASMOという世界的に見ても優れた交通系ICカードインフラを持っているが、逆に外国人観光客が現金やクレジットカードだけで移動しにくいという課題は今もある。東京など主要路線でのタップアンドゴー対応は少しずつ進んでいるが、まだ完全ではない。日本が「インフラの完成度は高いが外からのアクセスが不便」という状況を脱するヒントが、メルボルンのこの動きの中にある気がする。

うまくいくシナリオと、そうでないシナリオ。ポジティブなシナリオとしては、この4路線での実証実験が順調に進み、段階的に全路線・トラム・バスへと拡大していく流れだ。観光客の利便性が上がり、メルボルンへの訪問者が増え、地域経済にも好影響が出る。マイキーは完全廃止ではなく当面は並存させる形になるだろうから、既存ユーザーへの混乱も最小限に抑えられる可能性が高い。一方でネガティブなシナリオとしては、システムの不具合や不正乗車の増加、あるいは運賃収入の漏洩といった問題が出てきて、拡大計画が遅れる展開だ。タップアンドゴーはシンプルな仕組みに見えて、バックエンドの処理やセキュリティ対策は相当複雑になる。過去にも海外の導入事例でトラブルが起きたケースはあった。

「全路線展開」と「他交通機関への波及」が今後の鍵になる。今後の展望としては、2026年内に全路線への拡大がどれだけのスピードで実現するかが最初の分岐点になるだろう。それが達成されれば、トラムへの展開も現実味を帯びてくる。メルボルンのトラムでタップアンドゴーが使えるようになった日には、観光地としての魅力が一段と増すはずだ。日本も含め、世界の公共交通は「持つ必要のないカード」を減らす方向に動いている。財布の中のカードが一枚減るだけで旅がどれほど楽になるか、メルボルンがその答えを示してくれれば、他の都市にとっても参考になる。この実証実験は小さな4路線から始まるが、公共交通の未来という意味ではなかなか大きな一歩だと思う。

出典:Guardian World

📚 この記事に関連する本

「国際政治 日本」をAmazonで探す →

※Amazonアソシエイトリンクを含みます

📚 この記事に関連する本

「世界史 近現代」をAmazonで探す →

※Amazonアソシエイトリンクを含みます

コメント

タイトルとURLをコピーしました