ハマスがイランを「諫める」異常事態。少し前、BBCがこんなニュースを伝えていた。ガザを拠点とするパレスチナの武装組織ハマスが、最大の後ろ盾であるイランに対して「湾岸諸国への攻撃を控えてほしい」と呼びかけたというのだ。同時に、アメリカとイスラエルによる「侵略」に対してイランが自衛する権利は認める、というメッセージも添えている。支援を受ける側が支援する側に注文をつける、というこの構図、ちょっと待ってほしい、これは普通じゃない。
複雑な「同盟関係」が透けて見える。自分なりに整理すると、ハマスはイランから資金・武器・外交的支援を受けてきた関係にある。ところがイランは最近、湾岸諸国との緊張を高める動きを繰り返している。湾岸諸国とはサウジアラビアやUAEなど、石油収入で潤う産油国たちのことだ。この国々は表向きパレスチナ支持を掲げながらも、実際にはイランとは距離を置いており、アメリカや西側との経済的な結びつきも強い。ハマスとしては、自分たちへの支持を湾岸諸国にも維持してほしいし、中東全体をイランの行動で不安定にされても困る、という計算があるのだろう。支援者の動きが自分たちの立場を悪化させかねない、という焦りがこの発言の裏にある気がする。
イランと「抵抗の枢軸」の亀裂。歴史的な背景を見ると、イランとハマスの関係はそもそも一枚岩ではなかった。ハマスはスンニ派イスラム主義の組織で、イランはシーア派国家だ。宗派が違う。それでも「イスラエルへの抵抗」という共通目標でつながってきた。イランはこの関係を「抵抗の枢軸」と呼び、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派なども取り込んで地域的な影響力を広げてきた。しかし、ガザ危機が深刻化し、ヒズボラもフーシ派もイスラエルやアメリカとの衝突で消耗する中、ハマスは「このまま引きずられてはまずい」という現実的な判断をしつつあるのかもしれない。イランのしたたかな外交戦略は評価するとしても、自国の利益最優先で動く大国に振り回される小さな組織の苦しさ、というのはここにある。
SNSでも静かな驚きが広がっている。X(旧Twitter)で「Hamas urges key」と検索すると、このニュースへの反応が流れてきている。「ハマスがイランを諫めるとは思わなかった」「これは中東の力学が変わってきている証拠では」といった声が見られる。欧米のニュースフォロワーのあいだでは、単純な「対立の図式」が崩れてきているという感覚が広がっているようだ。正直きつい、というのは、こういう複雑な動きを「テロ組織と独裁国家の話」として遠ざけていると、本当の地殻変動を見逃すということだ。
日本のエネルギーと経済への直撃リスク。では、日本にとってこれがどういう意味を持つか。湾岸地域が不安定になると、日本は直接のダメージを受ける。日本はエネルギーの約90パーセントを輸入に頼っており、そのうち中東からの原油が大きな割合を占めている。ホルムズ海峡が封鎖されたり、湾岸諸国が戦乱に巻き込まれたりすれば、原油価格は跳ね上がり、輸送コストも上昇し、電気代やガソリン代、さらには食料品まで値上がりする。日本は資源は少なくとも、外交的な中立性と技術力というカードを持っている。湾岸諸国との経済・文化的な関係を地道に積み上げてきたのは、正直日本の数少ない強みの一つだと思っている。
ポジティブシナリオとネガティブシナリオの分岐点。明るい展開としては、ハマスのこの発言が「現実路線への転換」の兆しとなり、湾岸諸国を巻き込んだ停戦交渉や人道支援の枠組み形成につながる可能性だ。サウジアラビアとイランは2023年に中国の仲介で関係正常化しており、地域全体の外交的な和解の機運は完全に消えたわけではない。その流れが戻れば、原油市場は落ち着き、日本のエネルギーコストにも好影響が出るだろう。一方、ネガティブなシナリオはこうだ。ハマスの呼びかけをイランが無視して湾岸諸国への圧力を強め、アメリカがさらに軍事プレゼンスを高める悪循環に入った場合、中東全体が再び不安定化する。その場合、日本は静観しているわけにはいかなくなる。エネルギー安保の観点からも、何らかの立場表明や外交的行動を迫られる場面が来る。
カギは「湾岸諸国の自律性」と「日本の外交余地」。今後の焦点は二つだと思っている。一つは、サウジアラビアやUAEが今回の動きをどう受け止め、独自の外交判断を動かすかだ。湾岸産油国が「地域の安定のための仲介役」として動けるかどうかが、情勢を左右するカギになる。もう一つは、日本がエネルギー調達の多様化と外交的な信頼関係の強化を並行して進めていけるかだ。再生可能エネルギーへの転換は長期課題として続けながら、短期的には中東各国との関係をきめ細かく保つことが現実的な答えになるだろう。ハマスの「異例のメッセージ」は、中東の地殻変動を示すシグナルとして、しっかり読んでおく価値がある。
出典:BBC World


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