イランに新たな最高指導者が登場した。少し前、BBCが報じたニュースが気になって仕方がない。イランの新最高指導者に就いたとされるモジュタバ・ハメネイ氏が、その最初の声明でホルムズ海峡の封鎖を辞さないと宣言し、さらに中東地域にあるアメリカの軍事基地への攻撃も継続すると表明したというのだ。亡くなったアリー・ハメネイ師の息子が最高指導者の座を引き継いだという形になるが、その第一声がこれである。正直、「よりによって今これを言うか」という気持ちになった。
ホルムズ海峡封鎖の意味は途方もなく大きい。ホルムズ海峡というのは、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ幅わずか数十キロの細い水道で、世界の原油輸送量のおよそ2割から3割がここを通過している。サウジアラビア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦といった主要産油国の石油がタンカーで運び出されるルートであり、ここが封鎖されれば世界のエネルギー市場は即座に激震する。声明ではアメリカへの対抗姿勢を強調しているが、実際の被害は世界中の一般市民が受けることになる。脅しとして使うには効果抜群だが、その分だけ危険でもある。
なぜイランはこういう強硬姿勢をとり続けるのか。これを理解するには、イランという国の歴史的な立ち位置を押さえておく必要がある。1979年のイスラム革命以来、イランはアメリカとの対立を国家のアイデンティティの一部として組み込んできた。経済制裁に苦しめられながらも独自路線を貫いてきたその姿勢は、内部では「帝国主義への抵抗」として語られる。イランは古代ペルシャ帝国の末裔としての誇りを持ち、文化・文明・詩の国として深みのある歴史を持つ。その知的な蓄積と、現政権の強硬な外交姿勢が同居しているのが、この国の複雑さだと思う。新最高指導者が最初の声明で強硬路線を打ち出したのは、国内の強硬派へのシグナルであり、権力基盤を固めるための「宣言」でもあるだろう。
X(旧ツイッター)でも反応が広がっている。X上で「Iran new supreme」を検索すると、「ホルムズ封鎖は本気の脅しか、それともブラフか」という議論や、「新指導者が強硬姿勢を見せることで国内の求心力を狙っている」という分析、あるいは「これでまた原油価格が上がる」という市場への懸念の声まで、様々な反応が飛び交っている。国際情勢に敏感なユーザーたちが、すでにこのニュースを深刻に受け止めているのがよくわかる。
日本への影響は直撃と言っていい。日本は原油輸入のおよそ9割を中東に依存しており、その多くがホルムズ海峡を通じて運ばれてくる。つまり、海峡が封鎖されるという事態になれば、日本のエネルギーコストは急騰し、電気代・ガス代・ガソリン代が軒並み上がる。製造業のコストも跳ね上がり、物価全体への影響が出てくる。ここ数年のエネルギー価格高騰で家計が苦しくなった記憶はまだ新しい。日本はエネルギー安全保障という観点では、地政学的なリスクの最前線に常に立たされている。これは正直きつい構造だと思う。一方で、日本はこういう危機をきっかけに再生可能エネルギーや省エネ技術の開発を加速させてきた実績がある。その粘り強さは、この国の確かな強みだ。
ポジティブとネガティブ、両方の筋道を考えてみる。悪い方向に進むシナリオとしては、イランが本当にホルムズ海峡を封鎖、あるいは機雷敷設などで通行を妨害した場合、原油価格は一気に1バレル100ドルを超える水準に跳ね上がり、世界経済はスタグフレーション的な打撃を受けることになる。日本経済も円安と物価高が同時に進行するという最悪の組み合わせに直面しかねない。一方で、明るい方向に進むシナリオも十分ある。この声明があくまでも交渉上のブラフであり、アメリカや湾岸諸国との外交チャンネルが機能して緊張が緩和に向かうケースだ。歴史的に見ても、イランは強硬な言葉を使いながら、実際の行動では一定の抑制を保ってきた場面が多い。核合意をめぐる交渉が再開される可能性もゼロではない。
カギを握るのは「外交の余地があるか」だ。今後注目すべきポイントは二つある。一つは、アメリカの現政権がこの声明にどう反応するかだ。強硬な対応に出れば対立がエスカレートするが、対話の窓を残す姿勢を見せれば状況は変わりうる。もう一つは、湾岸の産油国や国際エネルギー機関が備蓄放出などの市場安定化策をどれだけ迅速に動かせるかだ。日本としては、エネルギー輸入先の多角化をこれ以上先送りしない、という判断を政策的に加速させるタイミングにある。この緊張が長引けば長引くほど、中東依存からの脱却を急ぐ理由が積み上がっていく。最終的には、脅しで始まった声明が、皮肉なことに日本のエネルギー転換を後押しする契機になるかもしれない。
出典:BBC World


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