今シーズン、アルプスで100人超が雪崩死。少し前、気になるニュースを見た。BBCが報じたこの記事によると、今シーズンのアルプスでスキー客が雪崩によって亡くなった数がすでに100人を超えたという。フランスの救助隊に同行した取材で、現場の救助隊員たちが口をそろえて言うのは「悪天候」と「準備が足りないスキー客の増加」だという話だ。読んで、正直複雑な気持ちになった。
何が起きているのか、自分なりに整理する。雪崩による死者が急増している背景には、まず単純に「コース外を滑りたがるスキー客」が増えていることがある。いわゆる「バックカントリー」と呼ばれる管理されていない山岳エリアへの進入だ。整備されたゲレンデを離れて新雪の斜面を自由に滑る、その感覚は確かに格別らしい。だが雪崩のリスクを読む知識も、救助用のビーコン(発信機)も持たずに山に入る人が後を絶たない。さらに今シーズンはヨーロッパ全体で気候が不安定で、雪が積もっては溶けを繰り返したことで雪の層が不均一になり、崩れやすい状態が続いていたらしい。悪条件が重なったという話だ。
スキー文化と「自己責任」の歴史的背景。ヨーロッパ、特にフランスやスイス、オーストリアといったアルプス圏の国々では、スキーは単なるレジャーではなく文化であり、自由と個人の裁量を重んじる価値観と深く結びついている。「どこを滑るかは自分で決める」という意識は根強く、過剰な規制を嫌う空気も当然ある。それ自体は悪いことではない。実際、これらの国々が長年かけて築いてきた山岳救助体制は世界屈指のレベルで、救助隊員の技術と献身には本当に頭が下がる。問題は、その文化の「自由」の部分だけを持ち込んで、リスク管理の知識や準備を省略してしまう観光客が増えていることだ。コロナ禍以降、アウトドア人気が世界的に高まったこととも無関係ではないだろう。
SNSでも反応が広がっている。X(旧ツイッター)で「Rescuers blame weather」を検索すると、英語圏を中心にさまざまな反応が出てくる。「気候変動のせいにするな、問題は人間の判断だ」という声もあれば、「救助隊員への敬意を忘れるな」という声も見かける。そして「SNSで映え目的のバックカントリー動画を投稿するインフルエンサーが危険を拡散している」という指摘も少なくない。これは正直きつい指摘だけど、否定しづらい。リスクを取って美しい映像を撮る人間が称賛される構造が、準備不足の人を引き寄せている側面は確かにあると思う。
日本への影響と、日本のスキー場が持つ可能性。これが日本にどう関係するか、少し考えてみた。実は今、日本のスキーリゾートへの外国人観光客は激増している。北海道のニセコを筆頭に、長野や新潟のリゾートにも欧米やオーストラリアからのスキー客が多く訪れるようになった。「ジャパウダー」と呼ばれる日本の乾いた軽い雪は世界的に評価が高い。ただ同時に、外国人観光客によるコース外滑走のトラブルも増えていて、一部のスキー場では深刻な問題になっている。アルプスで起きていることが、規模は違えど日本でも起き始めているわけだ。訪日スキー客の増加は経済的にはありがたい話だが、安全管理と観光収入のバランスをどう取るかは、これからの日本のスキー業界にとって切実な課題になるだろう。
楽観シナリオと悲観シナリオ、両方を見ておく。ポジティブな方向で言えば、アルプスでの悲劇が広く報道されることで、バックカントリー滑走のリスクへの認識が世界的に高まる可能性がある。日本のスキーリゾートも早めにルール整備や啓発活動を強化することで、「安全で質の高いリゾート」としてのブランドをむしろ高められるかもしれない。ニセコなどはすでに多言語での安全案内に力を入れており、その取り組みは評価に値する。一方でネガティブなシナリオとしては、規制が不十分なまま訪日スキー客が増え続け、日本でも重大事故が増加するという展開が考えられる。山岳救助の負担が自治体や地元消防に集中するという問題は、すでに現場から声が上がり始めている。対策が後手に回ると、経済的な恩恵よりも社会的コストの方が大きくなりかねない。
カギは「情報提供」と「ルールの国際化」だ。今後の展望として、最も重要になるのはスキー場側が「来るな」ではなく「正しく来い」というメッセージを明確に発信し続けることだと思う。安全教育の義務化、ビーコン携行のルール化、コース外立入禁止エリアの明示といった具体的な対策を、観光業界と行政が連携して進められるかどうかが鍵になる。アルプスの救助隊員が今シーズンどれほど過酷な現場に立ち続けたか、その現実は軽く見るべきではない。日本はまだ対策を打てるタイミングにいる。アルプスの教訓を正面から受け取れるかどうか、それが日本のスキー観光の未来を分けることになるだろう。
出典:BBC World


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