「任務完了」という言葉が再び亡霊のように蘇っている。イランと2003年イラクの危険な既視感

20年前の「任務完了」宣言が戻ってきた。BBCがこのタイミングで掘り起こした記事を読んで、正直ゾっとした。2003年5月、ジョージ・W・ブッシュ大統領が空母の上に「MISSION ACCOMPLISHED(任務完了)」という巨大な横断幕を掲げてイラク戦争の終結を宣言したあの瞬間。あれから何が起きたか、みんな知っているだろう。イラクは泥沼化し、数十万人が死に、アメリカは結局2011年まで撤退できなかった。その「任務完了」という言葉が今、イランをめぐる状況の中で再び問われ始めている。

歴史は繰り返すのか、それとも違うのか。今のイランをめぐる動きは、構造的に2003年のイラク侵攻前夜に似ている部分がある。アメリカとイスラエルによる軍事的圧力の高まり、核施設への攻撃論、「体制を変えれば中東は安定する」という論法。BBCはこの記事の中で、当時と現在のエコー(反響)は確かにあると指摘しながらも、同時に「深刻な違いもある」と強調している。イランはイラクではない。人口は8000万を超え、軍事力も国民の結束力も、サダム・フセイン政権末期のイラクとは比べものにならない。ただ、「任務完了」と言いたがる政治家がいる構造だけは変わっていない気がする。これは正直きつい。

イランの複雑な歴史と誤解されがちな実像。なぜこういうことが起きるのか、背景を少し掘り下げておきたい。イランはペルシャ文明を持つ国で、その歴史は2500年以上にわたる。1979年のイスラム革命で神権政治体制になったが、国民全員が強硬派かというとそんなことはなく、テヘランには若者文化が栄え、詩や芸術や哲学を愛する知識層が厚い。制裁に苦しみながらも、国民は自分たちのアイデンティティに強い誇りを持っている。そこを無視して「爆撃すれば親米政権ができる」という発想は、あまりに単純すぎる。2003年のイラクでもまったく同じ過ちが犯された。

SNSでも「任務完了」への反応が割れている。X(旧ツイッター)で「Mission accomplished The」と検索すると、英語圏を中心に「また同じことをやるのか」という批判と、「今回はイラクとは違う、イランの核は本当の脅威だ」という擁護が激しくぶつかり合っている。興味深いのは、2003年を実際に経験した世代と、それ以降に育った世代で温度感がまったく違うことだ。歴史の教訓は確かに引き継がれているが、それが政策判断に反映されるかどうかは別の話だ、というのが正直なところだろう。

日本の経済と暮らしへの直接的な影響。これが日本にどう関係するかというと、まず石油だ。日本はエネルギーの輸入依存度が高く、中東情勢が不安定になるたびに原油価格が跳ね上がる。ホルムズ海峡はイランの沿岸部に接しており、この海峡が封鎖されるだけで世界の石油流通の約2割が止まる。日本の電気代・ガソリン代・物流コストへの影響は即座に出る。加えて、円安との組み合わせが今は特に厳しい。日本政府が中東外交において比較的バランスの取れた立場を維持してきたのは、こうした現実的なリスク管理の上に成り立っている。そのバランス外交こそが、日本の強みでもある。

ポジティブとネガティブ、両方の未来がある。ネガティブなシナリオから言うと、軍事衝突が拡大してホルムズ海峡が機能不全に陥った場合、原油価格が1バレル150ドルを超えるような事態も現実的になる。日本のエネルギーコストと物価は再び大幅に上昇し、家計への圧迫が深刻化する。一方でポジティブなシナリオとして、イラン国内の政治的変化や外交チャンネルの復活によって核合意交渉が再開された場合、制裁緩和によりイランの石油が市場に戻り、原油価格の安定につながる可能性がある。日本はその過程で仲介的な役割を果たせる立場にあり、実際に過去にも独自の外交ルートを保ってきた実績がある。

カギは「任務完了」と言わないことだ。今後の展開で最も重要なのは、軍事的行動の有無よりも、「その後をどうするか」を誰が設計しているかだと思う。2003年の最大の失敗は「フセインを倒した後」を誰も真剣に考えていなかったことだった。今回、同じ轍を踏まないためには、イランと対話できる第三者的なアクターの存在が鍵になる。日本、そして湾岸諸国の一部はその役割を担える。軍事的な緊張が高まるほど外交の価値は上がる。「任務完了」という言葉が亡霊になっている今こそ、冷静な設計者が必要だ。歴史の教訓は繰り返すためにあるのではなく、超えるためにある。

出典:BBC World

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